皆さん、こんにちは。
大郷町歯科医院、院長の室月です。
今日は、治療前に行う麻酔についてお話ししていきます。
歯科治療において、患者さんの痛みを軽減し、快適に治療を受けていただくために欠かせないのが局所麻酔です。
その中でも最も頻繁に用いられる方法が「浸潤麻酔」です。
虫歯治療、歯内療法(根管治療)、歯周外科処置など、幅広い診療で使用されています。
浸潤麻酔とは、治療対象歯周囲の歯肉や歯槽粘膜に局所麻酔薬を注入し、麻酔薬を組織内へ浸潤させることで末梢神経終末や神経線維の伝導を一時的に遮断する麻酔法です。
局所麻酔薬は神経細胞のナトリウムチャネルを可逆的に阻害することで神経の興奮伝導を抑制し、痛覚を一時的に遮断します。
そのため、患者さんの意識を保ったまま、痛みを感じにくい状態で治療を行うことが可能です。
浸潤麻酔は、特に上顎で高い効果を発揮します。
上顎骨は皮質骨が比較的薄く、多孔性に富むため、注入した麻酔薬が骨内へ拡散しやすく、歯髄まで十分な麻酔効果が得られます。
一方、下顎臼歯部では皮質骨が厚く緻密であるため、浸潤麻酔のみでは十分な麻酔効果が得られない場合があります。
そのようなケースでは下歯槽神経伝達麻酔を併用することも少なくありません。
近年では、麻酔薬や注射手技の進歩により、下顎臼歯部でも浸潤麻酔の有効性が向上していることが報告されています。
現在、歯科領域ではリドカイン製剤が広く使用されており、多くは血管収縮薬であるエピネフリンが添加されています。
エピネフリンには局所血流を減少させる作用があり、麻酔薬の吸収速度を遅らせることで麻酔効果の持続時間を延長するとともに、術野の止血効果も期待できます。
一方で、高血圧や重篤な循環器疾患などを有する患者さんでは、全身状態を十分に評価したうえで麻酔薬の種類や使用量を選択することが重要です。
患者さんが「麻酔の注射は痛い」という印象を持たれることは少なくありません。
しかし、現在では表面麻酔剤の使用、33Gや35Gといった極細針の採用、麻酔液の体温への加温などにより、穿刺時や注入時の疼痛は大幅に軽減されています。
痛みの少ない麻酔手技は、患者さんの治療に対する不安の軽減にもつながります。
浸潤麻酔は安全性の高い処置ですが、偶発症への配慮も欠かせません。
注射部位の血腫、術後の咬傷、迷走神経反射による気分不良、まれに局所麻酔薬アレルギーや中毒症状などが生じる可能性があります。
そのため、処置前には既往歴や服薬状況、アレルギー歴を十分に確認し、必要に応じてバイタルサインを把握したうえで安全に処置を行います。
浸潤麻酔は、歯科医療において最も基本的かつ重要な疼痛管理法の一つです。
適切な解剖学的知識と確実な手技、安全管理を組み合わせることで、高い麻酔効果と患者さんの快適性を両立することができます。
当院では、治療そのものだけでなく、麻酔時の痛みや不安にも十分配慮し、患者さん一人ひとりの全身状態や治療内容に応じた安全な局所麻酔を心がけていきます。