みなさん、こんにちは。
大郷町歯科医院、院長の室月です。
前回はリスクファクターの概念についてお話しさせていただきました。
今日は、よく耳にする歯周病について、そのリスクファクターを詳しくお話ししていこうと思います。
まずは歯周病のリスクファクターは、細菌因子、宿主因子、環境因子の3つがあります。
1 細菌因子
歯周病発症のトリガー (引き金) となるのは、バイオフィルム中に存在する歯周病原細菌であり、初発因子、原因因子ともいわれます。1930~1960年代までは非特異性細菌(口腔内常在細菌)の増加により歯周病が発症すると考えられていましたが、 現在ではこの非特異性細菌の増加に加えて、特異性細菌(歯周病原細菌)が歯周病を引き起こすことが明らかになっています。
しかし、これらの細菌は口腔内常在細菌である場合もあり、Koch の原則を満たす真の病原菌ではなく、Socranskyらが定めた認定基準を満たす細菌を歯周病原細菌と定めています。
これらの細菌は“潜在的”な病原因子を保有しますが、同種の中でも病原因子を保有する株としない株が存在することがあり、また、病原因子の産生は細菌が生存する環境によって大きく影響を受けることが明らかになっており、今後、バイオフィルム中での病原性を検討する必要があります。
2 宿主因子
宿主因子は局所関連因子と全身性修飾因子に分類され、局所関連因子には、炎症性修飾因子(プラークリテンションファクター) すなわち、歯石、食片圧入、口呼吸、歯列不正、口腔前庭異常と、外傷性修飾因子すなわち、外傷性咬合、ブラキシズム (クレンチング、グラインディング、タッピング)、 舌や口唇の悪習癖、職業的習慣が含まれます。
また、全身性修飾因子には、年齢(加齢)、人種、性別、体質(遺伝因子)、全身疾患が含まれます。
3 環境因子
体質(遺伝因子)が先天的リスクファクターと呼ばれるのに対して、環境因子は後天的リスクファクターともいわれ、喫煙、ストレス、栄養障害、薬物、社会経済的環境など普段の生活に組み込まれているものが含まれます。
1)栄養障害
(1) ビタミンC
コラーゲン代謝、免疫反応(多形核白血球の走化、貪食能)、抗炎症作用(抗ヒスタミン反応)、歯肉炎症の抑制、抗酸化作用などに関連しています。
ビタミンC摂取量と歯周炎の関連について多くの疫学研究が行われ、両者の関連性を示した報告が多いです。
(2) ビタミンD
動物実験では、ビタミンD不足は歯周病を発症すると報告されている。一方、ヒトを対象とした研究では、ビタミンDの遺伝子多型と骨代謝との間の関連が報告されているが、臨床的な関連性に関しては評価が定まっていないです。
(3) カルシウム
カルシウム摂取量が800mg/日未満の場合,800mg/日以上に比して、歯周病のリスクが30~60%上がることが報告されています。しかし、骨密度との関連性と比較して、歯周病への関連性は低いと考えられています。
(4) その他
アルコールと歯周病との関連も指摘されており、アルコールは好中球、マクロファージ、 T細胞の機能を障害するとの報告があります。
臨床的には、アルコール摂取と歯周炎の関連性についてのコホート研究により、アルコール摂取が歯周炎のリスクファクターとなりうることが報告されています。
また、11論文のシステマティックレビューではアルコールの消費は歯周病のリスクインディケーターになりうると報告されています。
2) ストレス
ストレスが歯周病の発症、進行に関与する機序としては、ストレスが大脳皮質から自律神経系を刺激し、副腎から糖質コルチコイドの分泌が上昇することで免疫反応の抑制、交感神経系の亢進から歯肉血液循環の減少、唾液流量の低下が起こり、細菌感染に対する感受性が増加することが考えられます。
また、ストレスは生活習慣を変化させ、口腔衛生状態の悪化、喫煙、飲酒、食事の増加、ブラキシズムを引き起こし、間接的に歯周病を悪化させることも考えられます。
しかし、ストレスと歯周病の関係には多くの要因が複合しているため、ストレスが歯周病のリスクファクターとしてどの程度関与しているかについてはさらなる研究を行う必要があります。
いかがでしたでしょうか。
少し話にあがりましたが、次回は喫煙が歯周病に及ぼす影響についてお話ししていきます。